こんにちは、masayaです。
海外へ研究留学する際に利用できるフェローシップ(奨学金)は色々ありますが、日本人にとって最も応募しやすく待遇も良いフェローシップの一つは間違いなく『海外学振(日本学術振興会海外特別研究員)』だと思います。
自身の研究留学の際もポスドク期間中の最初の2年間をサポートしてもらい本当に助かりました。
しっかりと申請書が求めている内容を理解して、戦略的に申請書を書けば採択のチャンスが少しですが確実にアップするので、自身の申請書作成経験と数名の方の添削経験を基に『海外学振の採択率をちょっとだけ上げる戦略』についてまとめました。
A. 海外学振のメリット
- 採択率が20%前後と比較的高い
- 金銭的サポートが良い
- 海外在住でも応募できる
1. 採択率が20%前後と比較的高い
例えば世界的に知名度の高い“Human Frontier Science Program (HFSP)の長期フェローシップ”の採択率は世界中の応募者と競合しての15%前後です。その分HFSPのその後のキャリアへ与えるポジティブな影響は大きいですが。
一方海外学振の採択率は日本人のみの応募者で全カテゴリーで20%前後、ライフサイエンス系に限ればほぼ毎年20%を越えているので比較的取りやすい確率ではないかと感じます。
過去5年の採択率 (By “日本学術振興会海外特別研究員 申請・採用状況”)
2. 金銭的サポートが良い
海外学振は他のフェローシップに比べて金銭的サポートが良いです。海外学振の募集要項によると、地域によって異なりますが、
- 地域甲 (アメリカ、イギリス、ドイツ、カナダ、フランスなど): 約620万円
- 地域乙 (オーストラリア、韓国など): 約500万円
- 地域丙 (中国など): 約450万円
ほど支給されます。また上記金額は日本学術振興会と採用者に雇用関係がないため日本からの所得税がかからない扱いになるので、上述の金額が手元に届きます。
近年の為替変動による支給額が各国にポスドクの給与水準を下回らないようにするために、海外学振の支給額は昔よりも改善されました。2018年採用までの滞在費・研究活動費は380〜520万円でしたが、2019年採用分からは450〜620万円に増額になります。
受け入れ先研究機関によって海外学振の扱いが変わってくる(時にトラブルになる)ので、受け入れ先研究機関とはしっかりと話し合うことが大切です。
また日本国内から留学先へ行く時は、本人のみですが往路の航空券代 (日本国内の移動除く)をカバーしてくれますし、海外学振の2年が終了したタイミングで帰国する場合は帰国時の航空券代 (日本国内の移動除く)も支給してくれます。
3. 海外在住でも応募できる
何気に有難いのが、既に留学してポスドクとして働いている状態からでも応募可能なのは大きなメリットです。なぜなら、必要書類の一つである『受け入れ先研究者の承認』という書類の準備が簡単になるからです。受け入れ先研究室探しのステップをスキップできるからです。
日本国内から海外学振へ応募する際は、まず海外のポスドク先を探すところから始めなければいけません。これって簡単そうに聞こえますけど結構大変なことで、受け入れOKの返事を貰えるまで数ヶ月ほどかかかる場合も稀にあります。また、後で後悔しないためも自分で納得する研究室を選ぶことも大切です。
研究室選びについては、“ポスドク、大学院の研究留学で後悔しないための研究室の選び方”を合わせて読んでみて下さい。
また海外学振は申請資格を見ると学位取得5年未満なら何度でもチャレンジ出来るので、仮に落選し続けたとしても最大で5回は応募できるのも良い点だと思います。
B. 申請書作成の6つの戦略
1. 申請書の書いて欲しい内容を理解する
審査側が聞きたい事・書いて欲しい事は申請書の各項目の説明文にしっかりと明記されています。それらの説明文を読んで審査側が知りたい内容をしっかりと理解しておけば、申請書に書くべき内容・書く必要がない内容が見えてきます。
例えば『3.派遣先における研究計画』ですが、説明文には、
(1) 研究目的・内容(図表を含めてもよいので、わかりやすく記述してください)
①研究目的、研究方法、研究内容について記述してください。
②どのような計画で、何を、どこまで明らかにしようとするのかを、年次毎に(1年目、2年目)分けて具体的に記入してください。
③なお共同研究の場合には、申請者が担当する部分を明らかにしてください。
と、丁寧に書く内容を指定して貰っているので、言われた通りの項目を作って記述していくことに集中するだけでOKです。
記述例
研究タイトル
1. 研究目的・内容
1-1. 研究目的
2−3段落程度の文章 + 研究背景に関するFigure 1−2つ
1-2. 研究方法
2−3段落程度の文章 + 研究方法に関するFigure 1−2つ
1-3. 研究内容
2−3段落程度の文章 + 研究内容に関するFigure 1−2つ (受け入れ先研究室でのpreliminary dataなど)
2. 年次毎の研究計画
2-1. 1年目の計画
2−3段落程度の文章
2-2. 2年目の計画
2−3段落程度の文章
実際に提出した海外学振の申請書(研究計画・特色のページ)
ある程度申請書を書き上げた後でもう一度各項目の説明文を読み直してみて、申請書の内容が書くべき内容を捉えているかをチェックすると良いです。
もう一点の注意点としては、申請書はWordで作成することになると思いますが、日本学術振興会のホームページからダウンロードした『所定の様式を勝手に変更しない』ことです。Wordで文書を作成していると、文章が多くなったり改行のタイミングなどので稀に所定の様式の枠線が文章に押されて変わってしまうことがあると思います。
実際に変更してどうなってしまうのかというのは分かりませんが、つまらない事でマイナスな印象を与えるのは避けるべきなので、所定の様式内に収まるように文章は調整しましょう。
2. 成功サンプルを集めて学ぶ
海外学振に採択された経験がある方が身近にいればお願いして、是非その方の『海外学振の申請書 (成功サンプル)』を見せてもらいましょう。分野が近い方の申請書ならばなお良しです。
成功体験からしか学べない事、海外学振の申請書の成功サンプルから学べることは以下に挙げるように非常に沢山あります。
- 見やすいフォーマット
- 文章の構成
- 図の配置
- 響きの良い表現
などなど
実際の申請書を書き始める前に成功サンプルのスタイルを学んでおけば、最初のドラフトからそこそこの文章が書けるはずです。
これだけで成功サンプルを見ないで申請書を作り始めて、書き方に迷っている他の候補者よりも一歩先からスタートしていると思いますす。
逆に、成功サンプルを見ないで申請書を書くのは「この文章の書き方で良いのかな?」「この構成で大丈夫かな?」とガイドなしで進めていくことになるので、作業効率が良くない場合が多いと思われます。
研究機関内や知り合いに聞いて回れば、一人くらいは海外学振に採択された申請書(成功サンプル)を持った人はいると思うので、誠意を持ってお願いして成功サンプルを閲覧させてもらいましょう。
3. 受け入れ先の研究者と研究内容をしっかり決める
海外学振の審査に関わる評価で大きなウェイトを占める項目の一つは、派遣後の研究計画です。
派遣機関内(2年以内)に終了できそうな、かつ大きなインパクトを起こせそうな研究計画を作る事はとても重要です。
ポイントとしては、
- 着任後すぐに研究計画が始動可能であること
- 研究計画を遂行する環境が整っていること
- 研究計画が上手くいった場合に予測されるインパクトが大きいこと
などを研究計画に盛り込んで強調していくと良いと思います。
こうした良い研究計画を作るためにも受け入れ先研究者の方と研究計画の内容の話はしっかりと行います。多くの方にとっては英語でビデオ会議もしくはEメールでやりとりを重ねていくことになると思いますが、分からない部分があれば遠慮せずに聞きましょう。
英語でのコミュニケーションは不安に感じるかと思いますが、向こうだってフェローシップを持参してきてくれたほうが研究費の節約に繋がるのでちゃんと対応してくれるはずです。
4. 受け入れ先研究者の受賞歴をしっかり盛り込む
日本人は無意識のうちにどうしても少し謙遜してしまう部分があると思います。しかし、申請書の中でだけは普段よりも少し強めの褒め言葉を使って『どれくらい受け入れ先研究者が素晴らしいのか』について記述していきます。
海外学振でポスドクとして向かう研究室のボス(受け入れ先研究者)であれば、かなりの高確率でその分野では著名であったり、大なり小なりの『受賞歴』があるはずです。受け入れ先研究者の方の受賞歴をしっかりと教えてもらい、強調できる受賞歴は確実に申請書に盛り込んでいきます。受賞歴があると審査する側にとっても、受け入れ先研究者が優れているかどうかのわかりやすい1つの指標になると考えられます。
受賞歴を盛り込んだ例
また、指導者はHoward Hughes Medical Institute Investigatorであり、United States Presidential Award Early Career Award for Scientists and EngineersやThe Protein Societyから数多くの賞を受賞していることからもわかるよ
うに、指導者の功績は国際的に非常に高い評価を受けている.また指導者は十数人以上のポスドクと博士課程学生を指導してきており、 その大半がその後のキャリアを前進させている.
また上記の例では、受け入れ先研究者(指導者)が多くのポスドクを指導したという『メンターシップの経験』も全面に出してアピールしています。豊富なメンターシップの経験をアピールする事で、この受け入れ先研究者のもとでポスドクのトレーニングを行うことはその後のキャリアにとってポジティブだという印象を与えていると思います。
受賞歴・メンターシップ経験などの具体的な例を盛り込む事で、受け入れ先研究者の方がいかに優れているか、そして日本学術振興会がフェローシップをサポートして研究を行うのに足る人物であることをしっかりと強調する事はとても大切なことです。
5. フォント・色・フォーマットを整えて見やすくする
申請書内での『文字のフォント・色・フォーマット』を整えることで、文字が中心になってしまう申請書の見栄えを良くします。
文章中で色を使って強調したり、関連項目をグループ分けするのにとても効果的です。しかし、あまり多くの色を使い過ぎると逆にわかりづらくなってしまうので、赤色と青色、せいぜい緑色くらいまでにしておくのが良いです。
上の実際に使用した申請書では赤色と青色を使い分ける事で、関連項目同士のグループ分けを行っています。
このあたりの色使いなどのコツはプレゼンテーションの上達にも共通しているので、興味のある方は“英語が苦手だからこそ上達させたいプレゼンテーションの構成とポイント”を読んでみてください。
6. 数人の同僚・ボスに70%程度作れたら添削してもらう
申請書も一通り書きあがってきたら『70%くらいの段階』で一度、できれば数人の、同僚もしくはボスに添削してもらうことをお勧めします。
この同僚やボスに添削を依頼する段階では、自分の中で100%に近い仕上がりにする必要はありません。なぜなら、自分では100%だと思っていても添削側からみると修正が必要な箇所がたくさんあるからです。ほぼ確実に幾らかもしくはたくさんの修正を入れられて返ってくると思います。
1番やってはいけないパターンが、『締め切りギリギリまで自分に中で100%の仕上がりを目指して申請書を書いた後に同僚・ボスに締め切りギリギリになってようやく添削を依頼する』場合です。
こうなってしまうと、いざ添削の段階で大幅修正が必要になってしまった場合に時間が足りなくて修正が間に合わず、結局完成度の低い申請書を提出せざるを得なくなってしまいます。
添削サイクルの理想としては、自分と添削側の方との間で数ラウンド行う事です。そうした数ラウンドの添削の間に、
- 申請書作成段階で気付かなかった事に気付く
- 論理の展開の順番を変えた方がより良いストーリーになる
- 新しく図を追加した方がより内容が伝わる
など、色々な申請書作成初期段階で見落としていたこと・着想に至らなかったことが高確率で見つかるはずです。
是非締め切り時間から逆算して複数回の添削を行うことが出来るタイムフレームで申請書を作成して下さい。
まとめ
- 海外学振はメリットの多いフェローシップなので是非獲得を目指して欲しいです
- 申請書に書くべき内容を理解して、成功サンプルを参考にすれば良い仕上がりになる
- 完成度70%くらいの段階で頼れる同僚・ボスに添削してもらうことはとても大切
もちろん全員が採択されることは不可能ですが、ここでまとめた内容が少しでも海外学振の申請書作成の参考に、願わくば採択に繋がるような結果のサポートになれば幸いです。
成功サンプルを集めたりといった、ここで紹介した申請書の書き方は決して海外学振だけに特化したものではなく、学振特別研究員(DC1, DC2)や他の申請書作成にも応用できるので、覚えておいて損はないんじゃないかと思っています。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
参考になった、面白かったと思って頂けたら是非シェアして下さい 🙂
詳しい説明大変参考になります。博士課程進学志望の理学部四年生なのですが、学振、そして将来的に海外学振をとって海外で研究をしたいと考えています。修士課程や博士課程中にしておいたほうがいいことなどアドバイスがあればお願いしたいです。
どのフェローシップに応募するにしても業績はある程度は必要なので、まずは自分に与えられた(or自分で立ち上げた)研究テーマを形にすることに集中すると良いと思います。頑張って下さい。