こんにちは、masayaです。
博士課程修了後やポスドクのトレーニング後は大学の教職になるのが一般的なイメージだと思います。しかしそれ以外にも、様々なキャリアパスがあるのはあまり知られていないかもしれません。
私自身もある時期までは大学の研究職しか頭になかったですが、ポスドク終盤のある時期に今後の進路について考えた時、色々なキャリアパスがあることを知りました。今まで気付かなかった興味や仕事を見つけられるのに少しだけ役立ちました。
博士号取得者の日本での就職は厳しいという現状は否定できませんが、ポスドク・博士課程修了のトレーニングで得た問題解決能力を活かせる仕事はたくさんあります。色々な選択肢があることを知っておくで納得のいくキャリアパスを選択できると思うので、ポスドク・博士課程後の多様な進路について幾つかピックアップしてまとめます。
1. 研究職
博士課程やポスドクまでされた方は、多かれ少なかれ研究が好きだという方が多いと思います。研究を仕事として続けていくことを望むのが普通だと思いますが、ポスドク後に研究職に進むと一言で言っても、
- 大学 or 研究所 or 企業
- 国内 or 海外
- 任期付 or 任期なし
と色々な条件の研究職があります。
アメリカでの仕事を探したいという方は、就労ビザについて知っておいて損はないので、“アメリカで研究留学・転職するために知っておきたいビザの知識”を参考にしてください。
また分野にも寄ると思いますが、多様な職種がありますが以下に少数ですがピックアップしてまとめます。
1-1. 大学・研究所の研究職
大学で助教、講師、准教授、教授をするというのが一般的によく知られているキャリアパスだと思います。
実際には他にも、スタッフサイエンティストや共通機器研究者などのように色々な形で研究に携わることも可能です。
1-1-2. 研究室主催者(Principle Investigator: PI)
研究したことある方なら1度は考えたことがあるのが研究室のボス、研究室主催者(Principle Investigator: PI)です。
自分の研究したいテーマに沿って研究を進めていけるポジションです。研究室主宰者になったからには、継続した研究費の獲得による研究室の運営や、学生やポスドクなどの若手研究者の育成も行うとても責任のある仕事です。
日本では助教→講師→准教授→教授と段階を踏んで行き、チャンスがあれば准教授あたりから研究室主宰者になれる可能性が出てくるのが一般的なキャリアパスだと考えられます。
しかし海外ではポスドク後に独立してすぐに研究室主催者になる方が一般的です。ポスドクはあくまでもトレーニング期間であり、研究室主催者になってから以下にインパクトのある仕事をするかの方が重要になってきます。ポスドク期間中にいい成果を出していても、研究室主催者でラボを持った途端に成果が出なくなったという方も見たことがあります。
博士課程修了後のアカデミアの進路としては、ポスドク・特任助教・助教の3つが主だったキャリアパスになりますが、これら3つのポジションの違いなどについては“ポスドク・特任助教・助教の3つの職種の位置付け・職務内容・給料の違い”で詳しくまとめているので参考にしてみて下さい。
1-1-3. スタッフサイエンティスト(Staff Scientist)
スタッフサイエンティスト(Staff Scientist)は日本ではあまり聞き慣れないと思いますが、米国では比較的良く耳にする職種です。イメージとしてはポスドクの上位版のような感じで、研究室主宰者のように研究費の申請書を書いたりせずに研究に専念して大きな結果を出す研究のスペシャリストです。
アメリカでの給料はポスドクの約2倍相当の約$80,000です。
ポスドク時代の研究室にも3名のスタッフサイエンティストの方がいましたが、皆さんコンスタントに結果(論文)を出していて尊敬の目で見ていました。スタッフサイエンティストを雇う研究室にとっては、彼ら彼女らは研究室のエースであるわけで常に結果を求められる責任ある仕事です。
スタッフサイエンティストのデメリットとしては、研究室主催者のように自分で研究費を獲得して研究室を運営しているわけではないので、研究室主催者の諸事情で研究室が閉鎖することになった時は、自動的に失職=転職先を探さなければいけない点だと思われます。
ただし煩わしい研究費の申請書作成にほぼ関与しなくていい点は大きなメリットなので、実験が大好きでしょうがないというタイプの方にはお勧めのキャリアパスです。
1-1-4. ラボマネージャー
ラボマネージャーも日本であまり馴染みがないと思いますが、ラボマネージャーは試薬の管理、機器の管理、ドキュメントの管理など研究室の研究業務がスムーズに進捗するための仕事を色々とこなす頼りになる仕事です。
アメリカでのラボマネージャーの給料は約$60,000です。
ポスドク時代の研究室にもラボマネージャーがいましたが、共同研究先へのサンプルの国際便の手配の書類作成や研究室へ配属された新しい学生やポスドクの初期のトレーニングを行ってくれたりしていました。ポスドクが一人抜けるよりも重要なポジションだと思います。
1-1-5. 技術補佐員(Technician)
スタッフサイエンティストやシニアポスドクについて実験の補助を行ったりしてくれるのが技術補佐員(Technician)です。技術補佐員は大学を卒業して次のメディカルスクールやPhDコースへ入学する前に経験される方が多いです。
技術補佐員がいると一気に研究室の作業効率が上がることが多いので、とても助けになる仕事です。
ただし技術補佐員を一筋でやっていく方も中にはいて、シニアレベルになると給料もアメリカでは約$60,000ほどは頂けるようです。
1-1-6. 共通機器専属研究員(Core facility scientist)
共通機器専属研究員(Core facility scientist)は研究機関が持つ共通機器センター (Core facility)専属の研究員で、個別の研究室では購入や維持が困難な機器での解析を行ってくれる頼れる専門家です。
以前所属していたポスドクの研究機関では覚えているだけでも質量分析、DNA配列解析、超遠心機での解析、NMR解析、ペプチド合成、電子顕微鏡解析など色々な分野の専門家がいました。
アメリカでの共通機器専属研究員の給料は約$70,000です。
1-1-7. 2つ目のポスドク
研究機関先によってはポスドクの期限に上限を設定しているところも多いはずです。1つ目のポスドクで納得のいくキャリアパスを見つけられなければ、2つ目のポスドク先を探すことは良い選択肢だと思います。
私の大親友もポスドクを2か所、計7年をした後にPfizerの研究職へ転職しています。
後々後悔しないためにも、納得のいく道を見つけることがポスドク時代は大切な気がします。
1-2. 企業研究職・技術職
製薬企業をはじめとした企業でも研究職・技術職は数多く募集があります。特に製薬企業は今後成長が予測されている分野なので、製薬・バイオテク企業の仕事(研究職以外も含めて)の募集が増えるかもしれません。
参照:“5 Great Reasons to Choose a Pharmaceutical Career”
製薬企業とアカデミアの研究職の違いについては
- ゴールの違い
- 評価の違い
- サイエンスの違い
- ライフスタイルの違い
- 研究予算の違い
などの違いがあることを以前紹介しました。詳しくは”アカデミアとインダストリー(製薬)での研究・生活の違い“を参考にしてください。
2. 研究職以外のキャリアパス
ポスドクでのトレーニングは問題解決能力のトレーニングでもあると言えるので、研究職以外の分野でもとても役に立つと個人的には信じています。
博士課程〜ポスドクに3-8年間の研究に向き合って磨いてきた問題解決能力を活かす研究職以外の進路はここで紹介するよりももっと多様にあると考えられます。
2-1. 企業
企業の仕事はもちろん研究以外にも沢山ありますが、細かく書き出すとおそらくキリがないので製薬企業にちょっとだけ焦点を当てて紹介します。製薬企業での様々な仕事に関しては”製薬業界の職種紹介“を参考にすると良いと思います。
2-1-1. 医薬品開発職
医薬品開発職は製薬企業のResearch & Development (R&D)のDに当たる部分の仕事で、長い研究の末効果がありそだと認められた低分子化合物や抗体などの薬の候補が実際に健康な人や患者さんに使ってもらい、有効性や安全性に関するデータをまとめます。
最終的にはそれらのデータを新薬の申請書類としてまとめて、各国の新薬の承認機関へ申請を行うとても責任のある仕事です。
もう少し詳しく知りたい方は、“製薬業界の開発職として働く“を参考にしてください。
アメリカでの開発職(Development Scientist)の給料は約$90,000です。
2-1-2. メディカルサイエンスリエゾン(Medical Science Liaison: MSL)
メディカルサイエンスリエゾン(Medical Science Liaison: MSL)とは製薬企業、バイオテク企業、医療機器メーカー内でキーオピニオンリーダー(Key Opinion Leader: KOL)に対して、医学・科学的なエビデンスや特定の疾患領域(癌や心臓系など)の高度な専門知識をもとに、医薬品の情報提供を支援する職種です。
メディカルサイエンスリエゾンは医学や生命科学に対する深い理解と知識を必要とするため、一般的に博士課程相当の学位(PhD, PharmD, MD)を要件としている事が多いようです。
アメリカでのメディカルサイエンスリエゾンの仕事は2005年以降平均約75%の成長を見せている今後も伸びていく注目の職種です。
アメリカでもメディカルサイエンスリエゾンの給料は約$130,000です。
詳しくは“メディカルサイエンスリエゾン(MSL)の現状と今後“と“What is a Medical Science Liaison?”を参考にしてください。
知り合いにもアメリカでポスドクをした後に日本でメディカルサイエンスリエゾンの仕事をしている方がいますが、その時にポスドク後のメディカルサイエンスリエゾンというキャリアパスを知りました。
2-1-3. メディカルライター (Medical writer)
メディカルライターは、医者、サイエンティスト、専門家と共に医薬品情報、研究結果、医薬品・医療機器の取り扱いに関する文書を作成する仕事です。
これらの文書は体裁が整っていて明瞭で完結に書かれていなくてはいけないので、メディカルライターには高い文章作成能力が求められます。
詳しく“メディカルライターの仕事内容とライティングのコツ“を参考にしてください。
アメリカでのメディカルライターの給料は約$80,000です。
また“博士課程からメディカルコピーライターへ“で紹介されたいたインタビュー記事がとても面白かったので、参考にご覧ください。
博士課程からメディカルコピーライターという新しいキャリアパスを提示していて、活き活きと仕事をしている様がとても素敵でした。
2-2. 科学雑誌のエディター
普段は論文を投稿して査読を受けて掲載してもらうかを決められる科学雑誌ですが、科学雑誌側に回ってエディターとして働く道も興味深いキャリアパスです。
“An Insider’s Guide For How PhDs Can Get Science Editor Job “によると、科学雑誌のエディターの仕事は以下の点で大変ですがやりがいがありそうです。
- 多くの発表前論文を査読して受理かどうかの判断をする
- 雑誌自体の製作に深く関われる
- 時にコラムや記事を書く事ができる
Naturejobsという求人サイトでキーワードを「editor」で検索したところNature Publishing groupやPLOSなど聞き慣れたことがある雑誌のエディターの求人も見つかりました。
以下にPLOSのAssociate Editorというタイトルの求人(おそらく業界の入り口レベル)を例にみると、普通のポスドクが持っているスキル(PhD、問題解決能力、コミュニケーション)があれば十分に応募可能です。
Responsibilities
– Assessing new submissions and guiding manuscripts through the review process
– Overseeing editorial decisions
– Providing support to external Academic Editors
– Development of editorial policies and processes
– Representing PLOS ONE at scientific meetings
Qualifications and experience
– Experience in a scientific research environment, strong familiarity with the scholarly literature is essential
– A degree in a relevant subject area; a PhD qualification or similar clinical qualification is desirable
– Highly organised and efficient, with a strong problem-solving ability
– Excellent communication and presentation skills, both written and oral
アメリカでの科学雑誌のエディターの給料は約$75,000です。
2-3. リクルーター (Scientific Recruiters)
LinkedInに登録されている方なら一度くらいはリクルーターからコンタクトされたことがある方はいるのではないでしょうか?リクルーター(scientific recruiter)もポスドク時の経験を活かすことができるキャリアの一つです。
“10 reasons to consider a life science recruitment career”によると、
- 優れた人材のリクルートを通じて製薬・バイオテク企業の創薬研究へインパクトを与えることができる
- ライフサイエンスの研究経験などを活かしてクライアントとの関係を構築できる
- 製薬・バイオテク業界は安定的に成長している(+人材は流動的に移動する)
などが仕事の魅力です。
アメリカでのリクルーターの給料は約$50,000です。
2-4. 公務員
学術の方面から方向転換して公務員を目指すことも可能です。ただし公務員試験の受験には年齢制限(およそ30歳前後)があります。公務員の種類や都道府県毎に年齢制限が異なるので注意が必要です。
興味のある方は、“公務員試験総合ガイド“を参考にしてください。
3年で博士課程を修了したとして約27歳、ポスドクを2年して約2年して29歳なので、仮に公務員を考えるならこの辺りが限界ラインかと思われます。
2-5. 無限の選択肢
もちろん上述以外にも分野や国によっては無限の選択肢があると思うので、それぞれが納得のいくキャリアパスを選択できることを応援しています。
まとめ
- ポスドク・博士課程修了のトレーニングで得た問題解決能力を活かせる仕事は、視野に入っていないだけで研究職・非研究職に多様にある
- 博士号相当の資格(PhD, MD, PharmDなど)は世界で通用する資格なので、国内だけでなく海外も候補に入れると視野が広がる
- ポスドク・博士課程修了後の多様な進路を知っておくことで、納得のいくキャリアパスを選択することが望ましい
ポスドク・博士課程修了のトレーニングで得た問題解決能力は色々な場面で活きてくると個人的には思っているので、自信を持って次のステップへ向かうことができるよう応援しています。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
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アメリカでの給料に関しては“Glassdoor”を参考にしました。
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