タンパク質複合体の反応中間体と特定状態のトラップの創薬研究への応用

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こんにちは、masayaです。

先日、グループ内のLunch & Learnという勉強会のような場でポスドク時代の仕事に関連したCrosslinkerSortase A protein ligationを利用したタンパク質の特定の中間体もしくは特定のコンフォメーションをトラップする手法』についての話を創薬研究への応用を視野に入れつつ行ったので、せっかくなのでこちらでも簡単にシェアしてみようかと思いました。

個人的に不安定なタンパク質の中間体を捉えるというコンセプトはとても好きで、2016年に取り組んだ卓越研究員制度の研究計画でもこのアイデアを取り組んだくらいなので、今回は『反応中間体と特定状態のトラップの創薬研究への応用』についてシェアします。

1. 酵素反応における反応中間体と特定状態

Crosslinking Title タンパク質の酵素反応を酵素 (Enzyme: 上図のE)と基質(Substarte: 上図のS)のみで簡単に書くと、酵素と基質が反応して基質に何らかの変化や修飾が起きて生成物(Product: 上図のP)ができます。

この一連の反応の中では多くの場合はTransientな状態の酵素-基質複合体(上図のES)を経ることになります。この不安定なES複合体状態の中では例えば、ES複合体中にしか形成されない特定のポケットが出現したり、Open-Closeのような特定のコンフォメーションの制御が働いたりする場合もあると考えられます。

これらの通常の手法では捉えきれない不安定なES複合体をトラップする方法として、ポスドク時代のラボでは

  1. Crosslinkerを使って、Protein A, Protein B, (Protein C)の二者複合体や三者複合体を強制的にトラップする
  2. Protein Ligationを使ってProtein A, Protein Bの二者複合体を強制的にトラップする

という2つの手法が用いられていました。

 

2. 戦略① Crosslinking


Crosslinking scheme

1つ目のストラテジー、Crosslinkerを使った複合体のトラップでは、アミノ酸の一つであるCys同士をCrosslinkするCrosslinkerが好んで使われていました。Crosslnkerの選択肢としては、Cys-Cys、Amine-Amineなど色々なものが“ThermoFisherProtein labeling & Crosslinking”選択することができます。

特にBMOEとTMEAが頻繁に使われて最終的に良い結果を残していました。

 

3. 戦略② Sortase A Protein Ligation

Sortase scheme

2つ目のストラテジーは、Sortase Aという酵素を用いたProtein Ligationです。

Sortase Aの機能は、acceptor側のLeu-Pro-X-Thr-Gly (上図のLPXTG)というアミノ酸配列と、donor側のGly-Gly-Gly-Gly-Gly (Gly rich motif) (上図のGGGGG)という複数のGlyの塊のアミノ酸配列を認識して2つのアミノ酸モチーフを結合させます (上図のLPXTGGGG)。

このSortase Aを使ったprotein ligationのメリットは結合させたいペアのタンパク質中のCysを無視出来る点です。

Cys-Cysを繋ぎ合わせるCrosslinkingではペアのタンパク質同士のCysの数を変異を入れて1:1にしなければいけないので、Sortase Aを使うメリットは大きいです。

 

 3. Crosslinker/Sortase Aの蛍光ラベルへの応用

Crosskinking labeling

CrosslinkerとSortase Aの生化学実験への応用方法として、基質タンパク質を蛍光ラベルする方法もポスドクラボではよく使われていました。

頻繁に使う基質タンパク質であれば、蛍光ラベルしておくことで一回の実験結果が得られるまでの時間がウエスタンブロティングに比べるとだいぶ早く、またより綺麗なイメージが得られるというメリットがあります。

Western blotting vs fluoro-labeling

上の図は蛍光ラベルした基質を使う実験とウエスタンブロッティングの実験の時間・試料調製・データの質のメリットとデメリットを比較した表になるので参考にしてみてください。

 

4. 特定状態のトラップの創薬への応用例

今回紹介したにCrosslinkingとSortase A protein ligationではないですが、特定状態のトラップという同じコンセプトとしては、“Molecular glue kills cancer cells in mice”で紹介されているSHP2というタンパク質は良い例かと思います。

Chen YNP et al., Nature (2016)

このSHP2の例では、SHP099という低分子化合物がSHP2のOpen状態(active)とClose状態(inactive)の2つの状態のうちClose状態に現れるポケットに選択的に結合してSHP2の機能を阻害します。

プロジェクトの標的のタンパク質またはタンパク質複合体の性質によっては、これらの中間体や特定状態トラップは有効なアプローチになるではないかと感じます。

 

Chemistry

まとめ

Take home messages

  •  反応中間体や特定状態をトラップするためにCrosslinkingとSortase A protein ligationは有効な手法
  • CrosslinkingとSortase A protein ligationを用いた基質タンパク質の蛍光ラベルも実験系によっては有効な戦略
  • SHP2のようにタンパク質の特定状態を狙った創薬研究も魅力的

個人的にはCrosslinkingとSortase Aを使った特定状態のトラップは、ポスドク時代に興味を持ったアプローチで今後もプロジェクトの性質がこのコンセプトを許容するものであれば応用していきたいなと感じます。

 

最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

参考になった、面白かったと思って頂けたら是非シェアして下さい。

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