こんにちは、masayaです。
私事ですが、先日アメリカの製薬業界に入ってから1年が経ちました。アカデミアで約5年間ポスドクをしていたので、マインドセットをインダストリー(企業)仕様に変えていくのに苦労した1年間だった気がします。いやまだ少し苦労しています。
アメリカのアカデミアでの研究の話は留学経験者の方から聞いたことがある人が多いと思います。しかしインダストリーでの仕事、特にアメリカの製薬企業の研究職ってどんな感じかあまり知られていないのではないでしょうか?
今日は1年間企業(製薬業界)の研究職として働いてみて、今のところ感じているアカデミアと企業(製薬)の研究・生活の比較をして、違いついてまとめてみます。
アカデミアと企業(製薬)の違い
- ゴールの違い
- 評価の違い
- サイエンスの違い
- ライフスタイルの違い
- 研究予算の違い
1. ゴールの違い
アメリカの“Howard Hughes Medical Insititue (HHMI)”の大きなラボでポスドクをしていた頃は、競争が激しい分野だったので1日でも早くデータをまとめ論文を投稿することが短期的なゴールでした。実際に約5年間在籍した中で競合相手に負けて論文が出せない、ランクを落として投稿したことが2回ありました。
もちろん、長期的なゴールは基礎研究を通じた生命現象の理解ですが、短期的なゴールは“如何にして良質な論文を出すか“だったと思います。分野によっては、違うこともあるでしょうが、ポスドク期間中はこのゴールを強く意識せざるを得ませんでした。
次のステップ(ポジション)へ行くためには、現在のアカデミアとインダストリーの採用方法上、Strong Track Record(研究業績)は大事な選考ポイントの1つですから。
一方で、製薬企業ではアカデミアとは違い、論文を出すことは絶対的なゴールではありません。これは、働き始めて何度かマネージャーから話していただきました。
製薬企業のゴールは言うまでもなく、良い薬を患者さんのために作る“創薬“にあります。そのためには、1つ1つの創薬に関連するプロジェクトチームに如何に高い貢献ができるか、如何に高いインパクトを与えられるかが個人の研究者のゴールになります。
毎年のはじめにマネージャーとゴールの設定のミーティングをして、年度末にそのゴールの達成具合を話し合うといった流れで、ゴールの達成率を決定します。
2. 評価の違い
アカデミアでは先ほども述べたように論文を出し、その論文が他の研究者の方から引用されることで研究コミュニティから高い評価を得て行くことに繋がります。そして、それらの研究業績をもとに新たな研究予算を獲得していったり、学術賞を受賞することも研究者の評価と言えるでしょう。
一方インダストリーでは、上述のゴールの違いでも述べたように、プロジェクトチームへの貢献度、インパクト、年度のゴールの達成度によって評価が決まります。
プロジェクトをより臨床試験に近づけるような貢献ができれば、素晴らしい評価をもらえます。
例えば、
- XXX個の化合物を効率よくスクリーニングする手法を考案した
- 薬の候補の化合物のデザインを著しくサポートするデータを出した
- 新しいプロジェクトの案を起案した
などがわかりやすい例かと思います。
3. サイエンスの違い
アカデミアでは研究室主催者(PI)、ボスの研究計画に基づいて基本的には研究を行います。ただ、何か面白い発見に繋がりそうな提案をすると比較的すぐに実験に取りかかれる自由度は高いです。
一方で、インダストリーでは基本的にはプロジェクト毎にチームでゴールに向かって研究に取り組むので、個々人の研究者に求められる役割はかなり厳密に決まっています。そのためアカデミアの研究に比べると自由度は低いでしょう。
よくインダストリーの研究は歯車のようだと表現されるのはこの辺りが理由だと思われます。
4. ライフスタイルの違い
アカデミアで研究していた頃は、ポスドクでもあったので朝から晩まで研究室で実験をしていました。基本的なライフスタイルは9−21時だったと思います。アカデミアのファカルティーポジションの事は、見聞きした感想ですが夜の19−21時くらいに帰る人が多かった気がします。
一方、企業の研究職は成果を出していれば、何時に帰ろうが文句は言われません。今は大体9−17時のライフスタイルが定着してきました。帰宅後は家族と会話する時間が増えたので満足しています。
ちなみに、入社したばかりの頃に残業しようとしたら注意を受けて帰らされました。
5. 研究予算の違い
アカデミアのPIポジションで最も悩ましいのが研究予算(グラント)の申請に多くの時間を割かなければいけない点ではないでしょうか?昔ポスドク時代のボスがグラントの申請や更新に追われる生活はとてもハードだと言っていたのを鮮明に覚えています。
一方、企業ではR&Dの大きな予算が決められているので、現場の研究者が直接予算を申請したりする事はありません。アカデミアのグラントの申請と更新に追われる点がないのは、企業の研究職として働く一つの大きな魅力だと思っています。その分の時間をそのまま直接研究をする時間に充てて成果を出すことに集中できるので。
まとめ
- アカデミアでは自由度が高い研究ができ、論文で評価される。しかし研究費の申請にかなりの時間を割くのは大変である。
- 企業(製薬)では研究費の申請に頭を悩ませる必要はないが、研究の自由度は低めである。ライフスタイルとしてはアカデミアよりも家族に優しい印象がある。
今やりたい事が出来ている実感があるので、しばらくはDrug Discoveryを学びつつ1つでも多くのプロジェクトを臨床試験の段階まで持っていけるよう、プロジェクトチームに貢献していこうと思います。
アカデミアと企業でのポスドクの比較“ポスドクするならどトラがいいか?”を参考にしてください。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
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