Luck Is What Happens When Preparation Meets Opportunity

タンパク質分解誘導薬とは?これまでの薬と違う新しいタイプの薬

こんにちはmasayaです。

薬と一言で言っても、低分子薬、核酸医薬、抗体医薬など色々なタイプの薬がありますが、「タンパク質分解誘導薬」という薬のタイプを聞いたことはありますか?

日経バイオテクで少し紹介されていてたようですが、今大手企業もベンチャーも含めたアメリカをはじめ海外の製薬業界が熱心に開発を進めている、これまでの低分子薬とは薬の効く仕組みが全く異なるタイプの新薬が「タンパク質分解誘導薬」です。

今日はこの近い将来の創薬研究のトレンドになるかもしれない「タンパク質分解誘導薬」についてもっと知ってもらいたいと思ったので、研究に携わっていない方にも分かってもらえるように簡単にまとめます。

1. 低分子薬の効く仕組み

まず、一般的に薬と言われる低分子薬の多くは、身体の中にある病気に関係するタンパク質の機能を阻害する事で薬として効果を発揮します。活性を阻害するとも言います。

タンパク質とは体の中の細胞にあるDNAを切ったり、他の分子の機能を変換する役目を持った分子のことです。

実物のタンパク質の表面上には下の図の例のようにデコボコと大小様々な形のくぼみ、ポケットが存在しています。

多くの低分子薬はこのタンパク質の表面にあるポケットの内、機能(活性)に重要なポケットを塞ぐことでそのタンパク質が正常に機能しないようにします。上の例の場合は、Aのポケットが低分子薬が結合する活性部位になります。

 

低分子薬はよく下の図のように“鍵と鍵穴”に例えられたりしています。タンパク質の表面上には色々な形のポケット(下図ではA, B, C, D)が存在していて、多くの創薬研究では機能(活性)に必要な部位(下図のA)の形にフィットするように化合物を設計していきます。

2. タンパク質分解誘導薬の効く仕組み

一方で、タンパク質分解誘導薬の仕組みは、本来我々の身体が持っているタンパク質を分解するプロテアソームという分解装置の機能をちょっとだけ借りて、病気に関係するタンパク質を強制的に分解してしまおうというものです。

低分子薬が作用するためには、病気に関係するタンパク質の表面の機能(活性)に関係あるポケットを塞がなければならりません。しかしながら、全ての病気に関係するタンパク質にそういった機能(活性)に関与したポケットがあるわけではありません。これが低分子薬の一つのチャレンジです。

 

この低分子薬の弱点をカバーすると考えられているのがタンパク質分解誘導薬です。

  1. タンパク質分解誘導薬は左手(下図の紫の四角の部位)で標的タンパク質(Target)を捕まえて、右手(下図のオレンジの三角の部位)で分解シグナル分子(下図の灰色の小さな●)をつけるタンパク質(E3タンパク質)を捕まえて
  2. 標的タンパク質(Target)を分解シグナル分子をつけるタンパク質(E3タンパク質)の近くに引き寄せて、標的タンパク質に分解シグナル(下図の灰色の小さな●)を付けて
  3. 標的タンパク質(Target)をプロテアソームへと誘導して分解します

この一連の流れの中での重要なメリットは、タンパク質分解誘導薬が捕まえてくるポケットは活性部位のAのポケットでなくても、BでもCでもDでもどこでも構わないという点です。

 

機能(活性)に関与したポケットを持つタンパク質の数が限られているため、低分子薬で攻略できるタンパク質が身体のタンパク質全体の20-30%位と言われています。タンパク質分解誘導薬が攻略するポケットはどこでも良いので、低分子薬で攻略出来ない残りの全てのタンパク質への応用が期待されます。

これがタンパク質分解誘導薬の優れているポイントの一つで、理論的には全ての病気に関係するタンパク質に応用可能な点です。

このタンパク質分解誘導薬のアイデアを築いた“Craig Crews”先生の講演を何度か聴く機会がありましたが、“Undruggable to Druggable”というキーワードを使っているのがとても印象的でした。

3. タンパク質分解誘導薬の現状と展望

開発の現状

現在以下のように様々な海外の製薬企業がタンパク質分解誘導薬の開発に取り組んでいます。

この中で最も注目してもらいたいのが、コネチカット州New Havenにある“Arvinas”という会社です。なぜこのArvinasが注目かというと、Arvinasの創業者が先ほど紹介したタンパク質分解誘導薬の概念を築いたCraig Crews先生だからです。

今後の課題

とても夢のある技術ですが、もちろん今後克服しなければいけない課題も色々あります。

基本的には低分子薬2つを結合させた薬なので、おのずと薬のサイズ(分子量)が大きくなるので、大きな薬を通さないバリアがある脳への薬のデリバリーは難しいですし、経口投与に適応させるのも課題と考えられています。

それと、これまでの低分子薬のように大規模なスクリーニングを行って薬の候補の分子を短期間で絞る事がまだ難しい部分があるので、今後は効率的にタンパク質分解誘導薬の候補となる分子をスクリーニングする仕組みを作るのも課題と考えられています。

今後の展望

現在ではCraig Crews先生のリーダーシップの元、Arvinusでは経口投与が可能なタンパク質分解誘導薬の開発で最先端を進んでいるように、日々世界中で研究が進んでいるので、今後「タンパク質分解誘導薬」(英語ではProtein DegraderPROTACというキーワードを耳にする機会が増えると思います。

 

まとめ

幸運なことに私自身もこのタンパク質分解誘導薬の開発に現在関っているので、この新しいタイプの薬が今後どういう展開になっていくのか非常に楽しみにしています。

今後タンパク質分解誘導薬の良いニュースを聞く機会がどんどん増えていくことを期待していて下さい。

また、IMiDs (Immunomodulatory drugs)というもう一つのタイプのタンパク質分解を誘導する薬についても知って欲しいので、“IMiDsとは?もう一つのタンパク質分解誘導薬”でまとめてあるので参考にして下さい。

 

最後までお付き合い、ありがとうございました。

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