こんにちは、masayaです。
質量分析(MS)って聞いたことある方は多いと思いますが、創薬研究の場では質量分析(MS)は必要不可欠な技術で、化合物の同定やタンパク質の分子量変化の解析など様々な場面で利用されています。
そんな数ある質量分析(MS)の利用方法の中で、MSを化合物のスクリーニングへ利用する方法、『Affinity Selection Mass Spectrometry: ASMS』がとても興味深かったのでまとめてみました。
1. 質量分析とは?
質量分析 (Mass spectrometry)とは、有機化学や生化学などの試料の分析する手法の一つで、試料をイオン状態にして分離・分析することで
- 原子量/分子量
- 分子構造
- 翻訳後就職の有無
- 存在量(濃度)
- 生体内での薬物の代謝
- など
の幅広い情報を得ることができます。
“JAIMAの質量分析法”によると、質量分析(MS)は極めて微量の試料の検出が可能であるため、最も汎用されている分析手法の一つです。
質量分析法はfg (10-15g)レベルあるいはそれ以下の検出が可能な極めて高感度な手法であることや、分子量が100万におよぶタンパク質なども測定可能なため、その有用性は高く、現在最も広く用いられている分析手法の一つである。
2. 創薬研究におけるスクリーニング
以前の投稿“製薬企業の研究職(基礎研究)の仕事内容“で紹介したように、創薬研究では化合物のスクリーニングは極めて重要なステップになります。
- 標的の病気に関連するタンパク質の選定
- 標的タンパク質の理解・化合物のスクリーニング
- 化合物の合成・試験の繰り返し
- 化合物の評価系の確立
この化合物のスクリーニングには、標的ベースのアプローチでは“ハイスループットスクリーニング (High Throughput Screening: HTS)”や“DNA Encoded Library (DEL)”などが利用され、疾患ベースのアプローチでは“表現型スクリーニング (Phenotypic Screening)”などが使われます。
ここで紹介する質量分析(MS)を利用した化合物のスクリーニング手法、『Affinity Selection Mass Spectrometry』は標的ベースのスクリーニングの内の一つです。
3. Affinity Selection Mass Spectrometry (ASMS)を利用したスクリーニング
3-1. ASMSスクリーニングのワークフロー
ASMSでは名前の通りMSを利用して化合物のスクリーニングを行います。簡略なASMSのワークフローとしては、下図のようになっています。
- 標的タンパク質と化合物群を相互作用させる
- ゲルろ過クロマトグラフィー (Size Exclusion Chromatography: SEC)による標的タンパク質-結合化合物複合体と結合しなかった化合物の分離
- 標的タンパク質からの化合物の分離
- MSによる標的に結合した化合物の同定
ASMSのスクリーニングは、DNA Encoded Library (DEL)のスクリーニングと同じで標的タンパク質との『結合』をベースにして化合物群からヒット化合物を探してくるので、標的タンパク質の活性部位以外にも結合する化合物(アロステリック)もヒットしてきます。
そこで、ASMSでヒットしてきた化合物に対して本当に活性部位に結合するかどうか、そして標的タンパク質の活性を変化 (活性化or阻害) させるかどうかを確認するフォローアップの試験(アッセイ)が必要になります。
このアッセイにより、真のヒット化合物の絞り込みが可能になります。
3-2. ASMSスクリーニングのメリット
ASMSの良いところはいくつかありますが、創薬研究のスクリーニングでポピュラーなハイスループットスクリーニング (High Throughput Screening: HTS)と比較してみてみます。
メリット①: ラベルフリー
HTSではスクリーニングに利用する反応系として標的タンパク質(Enzyme)もしくは基質(Substrate)に蛍光物質でラベルして、本来身体の中にある状態とは少しだけ異なる状態にして標的タンパク質の活性の変化を測定します。
これに対して、ASMSでは蛍光物質などでラベルする必要がなく (ラベルフリー) 生体内の状態にかなり近い状態でスクリーニングを行うことが出来る点がメリットとして挙げられます。
稀にラベル化の影響で標的タンパク質と化合物の結合が阻害されてしまう事があるので、ASMSのラベルフリーのメリットは案外大きいです。
メリット②: スクリーニングまでの所要時間が短い
HTSでは標的タンパク質とその基質の反応条件の最適化はスクリーニング結果に大きく影響を与えるので、pH, 界面活性剤, 塩濃度, ラベルの位置など様々な要因を標的タンパク質毎に最適化するのが好ましいです。しかしこの最適化は時にとても時間がかかるので、HTSのスクリーニングを開始するまでには時間がかかることもあります。
一方で、ASMSは基本的にはラベルフリーの標的タンパク質と化合物群とを混ぜるだけなので、HTSに比べて条件の最適化にはそこまで長い時間はかからないはずです。
まとめ
- Affinity Selection Mass Spectrometry (ASMS)は質量分析(MS)を利用したスクリーニング
- ASMSは結合をベースにしたスクリーニングなので、追加試験で活性を変化(活性化or阻害)させるか確認が必要
- ASMSはHTSに比べてスクリーニング開始までにかかる時間が短いことがメリットとして挙げられる
HTSに比べるとあまり馴染みがないかもしれませんが、ASMSは基礎研究の現場ではセミナーやカンファレンスなどで良く聞く手法の一つで、実感として今後ASMSを利用した創薬研究が進んでいく感じているので、この機会に是非覚えておいてみて下さい。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
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