Luck Is What Happens When Preparation Meets Opportunity

薬の名前の由来: 薬の一般名の決め方のユニークなルール

こんにちは、masayaです。

薬の名前ってどうやって決まっているかご存知ですか?

創薬研究に従事し始めてまだ間もないですが、本当に色々な響きの名前があるなぁと実感しています。ただ、これらの一風聞き慣れない薬の名前(一般名)はある程度の規則に従って付けられているという事を知ったので、『薬の名前の決め方のルール』(Drug Nomenclature)について簡単にまとめてみました

1. 薬の3つの名前

一般的な医療用医薬品は以下のように3つの名前を持っています。

  1. 化合物名
  2. 商品名
  3. 一般名 (成分名)

1-1. 化合物名

薬の化合物名は、IUPAC (The International Union of Pure and Applied Chemistry)という機関が定めたIUPAC命名法というルールにのっとって名付けられます。

リピトール (Lipitor)という高コレステロール血症の薬を例にとると、リピトールの化合物名は『(3R,5R)-7-[2-(4-Fluorophenyl)-3-phenyl-4-(phenylcarbamoyl)-5-propan-2-ylpyrrol-1-yl]-3,5-dihydroxyheptanoic acid』です。長いですね。化学を専門にしていなければ、理解するのが難しいです。

このように低分子化合物の薬はその化学構造に基づいた化合物名が名付けられています。

リピトールは1996年から2012年の間で世界で最も売れた薬として有名です。またリピトールが市場に出るまでのストーリーも面白いので、興味がある方は“Atorvastatin-History”も読んでみてください。

1-2. 商品名

薬の商品名は、製薬企業が独自につける名前で最も耳にする名前だと思います。

先程の高コレスロール血症のリピトール (Lipitor)は商品名になります。

その他の良く耳にする薬の商品名では、抗インフルエンザ薬のタミフル (Tamiflu)やゾフルーザ (Xofluza)、抗がん剤のオプジーボ (Opdivo)などが挙げられると思います。

これらの商品名、特に内資系製薬企業が名付ける商品名はユニークな由来のものも多いので、お薬の名前の由来を見てみると面白いかもしれません。

1-3. 一般名(成分名)

薬の一般名 (generic name)は、薬の効果を示す有効成分の名称になります。

この一般名 (generic name)は製薬企業がWHOへ申請して認可された後に、使用可能になります。

上で紹介したリピトールの一般名 (generic name)は『アトルバスタチン (Atorvastatin)』になります。

同じように、タミフル (Tamiflu)の一般名は『Oseltamivir』、ゾフルーザ (Xofluza)は『Baloxavir Marboxil』、オプジーボ (Opdivo)は『Nivolumab』になります。

この一般名 (generic name)は一定の規則にのっとって名付けられていることが多いので、簡単なルールを覚えているだけで、

についてある程度予想できるのでとても面白いです。

詳しくは、“Generic Name Stem”を参考にするといいですが、以下に簡単な一般名 (generic name)のルールを紹介します。

2. 一般名 (generic name)ルール

2-1. 抗ウイルス薬

抗ウイルス薬のルールは一般名の語尾に『-vir (-ビル)』が付きます。ウイルス(virus)から来ていると思います。

例① タミフル (一般名: Oseltamivir)

A型およびB型インフルエンザウイルスのノイラミニダーゼという酵素を阻害する抗インフルエンザ薬。

例② ゾフルーザ (一般名: Baloxavir)

A型およびB型インフルエンザのキャプ依存性エンドヌクレアーゼという酵素を阻害する抗インフルエンザ薬。

例③ イナビル (一般名: Laninamivir)

A型およびB型インフルエンザウイルスのノイラミニダーゼという酵素を阻害する抗インフルエンザ薬。

2-2. 抗体医薬

抗体医薬のルールは、一般名の語尾に『-mab (-マブ)』が付きます。これは単クローナル抗体 (monoclonal antibody)からきています。

例① ヒュミラ(一般名: Adalimumab)

関節リウマチや潰瘍性大腸炎の治療薬のTNF-α抗体。

例② オプジーボ (一般名: Nivolumab)

免疫チェックポイント阻害薬の1種の癌治療薬のPD-1抗体。

2-3. ペニシリン系抗生物質

ペニシリン系の薬の一般名には、語尾に『-cillin (-シリン)』が付くのがルールです。ペニシリン (Penicillins)のスペルから名付けられているのは明白ですね。

例① アンピシリン (Ampicillin), カルベニシリン (Carbenicillin)

分子生物学などの研究で頻用される抗生物質

例② アモキシシリン (Amoxicillin) (商品名: Moxatag)

アモキシシリン (Amoxicillin)に関しては商品名より一般名で使われる事の方が多いかもしれないくらい、様々な感染症治療で使われている印象を持っています。

2-4. リン酸化酵素阻害薬

薬の標的として最も研究されている酵素の一つはリン酸化酵素 (kinases)です。リン酸化酵素にはその機能によって幾つかのサブグループに分かれています。

その中でCyclinというタンパク質に依存して活性を発揮するリン酸化酵素 (Cyclin-dependent kinases)を標的にするタイプの薬の一般名には、語尾に『-ciclib (-シクリブ)』が付くのがルールです。

乳癌治療薬のRibociclib (商品名: Kisqali), 同じく乳癌治療薬のPalbociclib (商品名: Ibrance)がこのパターンに当てはまります。

別のタイプのチロシンリン酸化酵素(Tyrosine Kinases)を標的にするタイプの薬の一般名には、語尾に『-tinib (-ティニブ)』がつくことが多いです。

これらに当てはまるのは、白血病治療薬のImatinib (商品名: Gleevec), 免疫性血小板減少性紫斑病治療薬のTamatinib (商品名: Tavalisse)が挙げられます。

2-5. 特定の酵素の阻害薬

酵素を阻害するタイプの薬の一般名のルールは、標的にする酵素や作用機序ごとに異なっていてとても幅広いです。

例えば、一般名中に『-vastatin (-バスタチン)』という名前が付いていればHMG-CoA還元酵素という酵素を阻害する高コレステロール血症薬です。Atrovastatin (商品名: Lipitor)やMetrovastatin (商品名: Mevacor)があてはまります。

他の例では、Factor Xaという酵素を阻害する薬の一般名には『-xaban (-クサバン)』が入ります。静脈血栓塞栓症の治療薬のApixaban (商品名: Eliquis)があてはまります。

まとめ

薬の一般名のルールをちょっとだけ覚えておくと、何の薬なのかやどんな作用機序なのかが類推出来るのでちょっとだけ面白く感じることができるかもしれません。

 

最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

参考になった、面白かったと思って頂けたら是非シェアして下さい 🙂

TOPページへ戻る